特定領域研究

  「新世代の計算限界」 ニュースレター    第 6 号        2006/12/5


          はじめに

このニュースレターは,特定領域・新世代の計算限界のメンバーの情報交換と交流を目的とした情報発信誌です.毎回,いくつかの研究関連の記事と,特定領域のスケジュール・活動報告と,各研究者の活動予定などをお送りいたします.今回は,広島大学の藤田先生による研究紹介と,京都大学山本さんによるICALPの報告, 11月に行われた秋学校・全体会議の報告を行います.

 

1.研究紹介         − 藤田 敏 (広島大学)

2.ICALP06 in Venice 報告書     − 山本 真基 (京都大学)

3.平成18年度秋学校で実現できたことと実現できなかったこと   − 岡本 吉央 (豊橋技術科学大学)

4.2006年度第1回全体会議議事録  − 事務局

5.イベントカレンダー + 事務連絡

6.このニュースレターについて



      研究紹介    藤田 敏 (広島大学)


2004年5月にWinnyの開発者が著作権法違反幇助容疑で逮捕されたことによって社会的な認知度が一気に高まった感のあるピア・ツー・ピアシステム(P2P)ですが、「必要な情報を複数のコンピュータで共有する」というアイデアそのものは情報工学における基本的な方向性のひとつであり、その使い方さえ間違えなければ、P2Pの使い勝手を向上させることには依然として大きな社会的意義があると考えられます。P2Pにおける重要な技術的課題にはセキュリティの向上や透過性の確保など様々なレベルのものがありますが、本稿では、P2P上の情報共有方式について私がここ数年考えていることについてご紹介したいと思います(関連する国際会議としてはICDCSやINFOCOMなどがあります)。

P2Pは、インターネット上のノードの部分集合から構成される分散システムで、任意の2ノード間の通信は、(TCP/IPなどの)下位層のプロトコルによって実現されています。各ノードはP2Pに参加しているほかのすべてのノードについては知ることが出来ず、常に、ごく限られた数の(隣接)ノードに関する情報だけを保持しているものとします(通常そのような論理的な隣接関係によって定義されるネットワークは、物理的なアンダーレイネットワークに対してオーバーレイネットワークと呼ばれます)。ここで問われる問題は、ある求められる機能、たとえば情報の検索や必要な計算など
を効率よく実現するために、オーバーレイネットワークの構成法をどのように設計すればよいのかという問題です(ネットワークそのものを設計するのではないことに注意)。ただし、どのノードもネットワークに関する部分的な情報、たとえば自身の過去のアクセス履歴や隣接ノードに関する情報などしかもっておらず、あらかじめ共有される知識の量も出来るだけ少なく抑えることが望まれます。加えて実用上は、一部のノードに過度に負荷が集中することを避け、ネットワーク形状の動的な変化や故障などに対してうまく適応させていくことも求められます。

この問題を解く上でキーとなるポイントは、おそらく、構成法の中にどのような形で秩序を導入すればよいのかという点です(たとえばヒープ木状のオーバーレイネットワークを用いれば効率的に最大値検索を行うことができますが、問い合わせの開始地点となる根の部分でボトルネックができてしまうのであまり嬉しくありません)。P2P上の探索問題に関して過去に提案された手法の中で私自身が面白いと感じたのは、uniform hash functionを利用したDHT (Distributed Hash Table)と呼ばれる手法と、randomizationを利用したskip graphという手法です。前者は、ある名前をもったファイルなどの資源がどのノード上に置かれているかというインデックス情報をあらかじめ定められたハッシュ関数で仮想的な距離空間上のポイントに写像して記憶するという方法で、距離空間をどのように分割してノードに割り振るかという問題と表裏一体になっています(実システムとしてはChordやPastryなどが有名)。いっぽう後者は、要素を昇順に並べたリング上にショートカットをランダムに張ることで、二分探索を確率的にシミュレートするというアイデアに基づいています(Aspnes and Shah, SODA 2003)。いずれの手法も既存のデータ構造やアルゴリズムなどの話と関連が深く、多くの理論関係の研究者がこの分野で仕事をしています。また、特に後者については、データ構造に関する既存の話の焼き直しではないかという面は確かにあるのですが、負荷分散や耐故障性という、従来のデータ構造ではあまり問われてこなかった評価尺度が意味をもってくるという点で、興味深いと思います。

以上のようにP2Pは理論的な側面からもここ数年幅広く研究されているのですが、今後の展開としては、たとえば以下のようなことが考えられます。まず検索という観点からは、類似検索などのあいまいな検索を実現することが挙げられます。単純なDHTでは、原理上一致検索しか実現できませんが、ハッシュ関数の工夫や特徴ベクトルの導入などによって、類似検索を何とか実現できるのではないかと考えています(実際、この方向の研究は最近ずいぶん進んでいます)。もうひとつの方向として考えられるのは、オーバーレイネットワークの構成法にスモールワールド性を導入することです。たとえば格子空間にショートカットを付与して点間の貪欲ルーティングのホップ数を減少させようとした場合(直径を減少させるのではありません)、ショートカットされる2点を等確率でランダムに選択するのではなく、格子空間内でより近い2点が高い確率で選択されるように選択分布にバイアスをかけることで、平均O(log^2 N)ホップでのルーティングが可能になることが知られています(Kleinberg, STOC’03)。このことから、たとえばこの結果をうまく利用することで、オーバーレイネットワーク上の様々な処理時間を大幅に短縮できるのではないかと考えています。また、詳しく述べるスペースはありませんが、上述のP2Pのモデルはオンラインアルゴリズムやセンサーネットワーク上のデータマイニング問題として定式化することも可能であり、幅広い分野の研究者が参加している本特定領域の多くの方にも興味をもっていただける問題なのではないかと考えています。

 


 ICALP06 in Venice 報告書     山本 真基 (京都大学)


 今年2006年の ICALP は,7月10日(月)〜7月14日(金)に,イタリアのベニスで開催されました.街は連日,晴天に見まわれ,旅行シーズンでもあったため,観光客でとても賑わっていました.特に,会議初日の前日の夜は,地元イタリア対フランスのワールドカップの決勝戦が行われていて,そしてイタリアのチームが勝ったため,かなりのお祭り騒ぎでした.

 会議の開催場所は,そんな喧騒から少し離れて,ベニス本島から船で10分ほどの孤島(San Servolo 島)にある,ベニス国際大学で行われました.アルゴリズムが中心のトラック A,トラック B:ロジック,トラック C:暗号,の3セッショ
ンが並列して動いていました.受理された論文数が多かったためか,今年から会議録が二分冊になって,更にCD-ROM が付いていました.ICALP の会議は月曜日から金曜日の5日間で,その前の日曜日とその後の土曜日と日曜日に,計9つのワークショップが開かれました.本プロジェクト NHC がサポートする,iETA(Improving Exponential Time Algorithms)は,ICALP 後の日曜日に開かれ,チュートリアル講演の3つを含め,合計11個のトークがあり,50名近くの参加者がいました.難しい問題のための指数時間かかる厳密アルゴリズムを提案する論文がここ数年内で目立つようになり,本ワークショップは,その研究領域の更なる発展のために開かれました.指数時間アルゴリズムを改良する様々なテクニックを知ることができ,また他の研究者との交流がはかれ,厳密アルゴリズムの研究領域を発展させるための最初のステップとしては有意義だったのではないかと思いました.最後のディスカッションのセクションでは,それぞれの(難しい)問題(例えば,3-SAT,SAT,TSP など)に関して,これまでの改良の歴史ならびに現在の最良計算量を記録したウェブサーバーを立ち上げてはどうかという事が提案されました.

 ICALP は素晴らしい国際会議だけあってとてもよい論文が多く,その中で自分が興味を持った論文をいくつか紹介したいと思います.

The Spectral Gap of Random Graphs with Given Expected Degrees, Amin Coja-Oghlan and Andre Lanka:

グラフの分割問題を解くヒューリスティックアルゴリズムの解析に,スペクトラル手法が有効であることが知られています.これまで,その解析方法が適用されてきたランダムグラフの分布は,辺次数の期待値が regular であるものでした.これに対して,例えば,インターネットのドメイングラフの辺次数は "power law"に従う,つまり,ある定数 c に対して,次数 d のノードの数は d^{-c} に比例する,という実態から,irregular なグラフを扱うことには実用的なメリットがあります.この論文では,power law に従う分布を含む,より一般的な分布を定義し,その分布に対して,スペクトラル解析が(regular なグラフの分布の場合と)ほとんど同じように(詳細は論文を参照下さい)適用できることを示しました.これの先行研究に,密なグラフの分布に対する似た結果があり,この論文は疎なグラフの分布に対するもので,先行研究を補完する結果となっています.

The Connectivity of Boolean Satisfiability: Computational and Structural, Dichotomies, Parikshit Gopalan, Phokion G. Kolaitis, Elitza N. Maneva, and Christos H. Papadimitriou:(これは,同僚の玉置さんにサーベイしてもらいました.もちろん,以下の説明に不備があれば,それは本原稿筆者の責任です.)

この論文は,n 変数ブール論理式に対して,その n 次元ハイパーキューブ上の解空間が連結であるかどうか?という問題(以下ではこれを解連結問題と呼びます)を扱っています.1978年,Schaefer が,次の Dichotomy Theory が成り立つようなフレームワークを提案しました.「論理式が,以下のいずれかを満たせば,その充足可能性問題は多項式時間計算可能である:

1. すべての節が 2-CNF で記述できる.

2. すべての節が Horn-CNF で記述できる.

3. すべての節が dual-Horn-CNF で記述できる.

4. すべての節が Affine である(パリティ関数で記述できる).

それ以外の充足可能性問題はすべて NP-完全である.」(この定理より,SAT の変種である NAE-SAT や XSAT が NP-完全であることが示されたことは,よく知られた事実です.)以降では,論理式が以上の四つのいずれかを満たすことを,論理式がSCHAEFER であるということにします.この論文では,以上の SCHAEFER を真に包括する "TIGHT" という性質を見い出し(詳しくは論文を参照下さい),解連結問題について次の Dichotomy Theory を示しました.「論理式が TIGHT であれば,その解連結問題は coNP である.それ以外の解連結問題はすべて PSPACE-完全である.」また,論理式が TIGHT でかつ Non-SCHAEFER であれば,解連結問題が coNP-完全になることが示されており,論文の最後で,SCHAEFER な論理式の解連結問題は多項式時間計算可能である(それゆえ,論理式の解連結問題に関してはTrichotomy Theorem が成り立つ),という conjecture を掲げています.このconjecture に関して,SCHAEFER のうちの条件1と4について,解連結問題が多項式時間で計算可能であることは(こちらで)証明済みです.

Exact Algorithms for Exact Satisfiability and Number of Perfect Matchings, Andreas Bjorklund and Thore Husfeldt:

分割統治法と包除原理のそれぞれの方法を用いて,XSAT 問題と完全マッチングの数え上げ問題それぞれに対して,厳密アルゴリズムを提案しています.XSAT は NP-完全,完全マッチングの数え上げ問題は #P-完全であるので,提案されているアルゴリズムはいずれも超多項式時間かかるものです.

また,本プロジェクト NHC がサポートする iETA の中からは,以下の一つを紹介します.Inclusion-Exclusion Algorithms for Counting Set Partitions, Andreas Bjorklund and Thore Husfeldt: 先に紹介した論文と同様に,包除原理を使って,Domatic Number や Chromatic Number などのグラフ分割問題を,すべて O(2^n) で解くことができることを示しています.包除原理を使ったかなりシンプルなアイデアで,それまでの複雑なアルゴリズムのバウンドを O(2^n) に改良しています.なお,この論文は今年の FOCS に受理されています.

今年2006年のゲーデル賞は,以下の論文に贈られました.(この論文は今年,3年に一度贈られるファルカーソン賞にも選ばれました.)Manindra Agrawal, Neeraj Kayal, and Nitin Saxena, PRIMES is in P, Annals of Mathematics 160(2):781-793, 2004. この論文の第一著者である Agrawal により,A Short History of "PRIMES is in P" と題して,一時間の基調講演が行われました.以下のようなスライドの目次で,結果に辿り着くまでの歴史を話していました.

1. August 1998: A Question

2. August 1998 - January 1999: Primality Testing as Identity Testing

3. February 1999: A Conjecture

4. March 1999 - July 2000: Failed Attempts at Proof

5. August 2000 - December 2002: Experiments

6. January 2002 - July 2002: Another Attempt at Proof

PRIMES is in P という結果に辿り着くまでの紆余曲折を垣間見ることができ,とても興味深いものでした.特に,結果が出る直前に,当時学生だった著者二人(Kayal & Saxena)を中心に,ある conjecture を検証するための実験を繰り返し行ったことは,とても興味深かったです.計算機実験が理論的な結果を出すのに一役かうこともあることを,改めで感じました.

今年2006年の EATCS 賞は,ワーウィック大学の Mike Paterson に贈られました.彼は,その基調講演の最後で,成功するための秘訣として次の三つを挙げていました.

1. 早くから始める

2. 優秀な研究者と仲間になる

3. 研究を楽しむ

今回,この ICALP'06 に参加させてもらったことは,自分にとってすごく大きなものでした.会議の一日一日がとても新鮮なものに感じられ,そこで発表されている内容をはじめ,色々と学ぶことが多かった一週間でした.世界的に有名な研究者を間近で見ることができ,少しでも早く,こういう著名人達と対等に話ができ,その輪の中に入れるよう,日々研究に励んでいきたいと思っています.

 最後に,ICALP06 への参加を通じて色々と学ばせて下さった,NHC 代表者の岩間先生をはじめとする多くの先生方に感謝致します.どうもありがとうございました.

 

 


 平成18年度秋学校で実現できたことと実現できなかったこと       岡本 吉央 (豊橋技術科学大学)


 平成18年11月15日から17日までの3日間,サンパレア瀬戸 (愛知県労働者研修センター) において,NHC秋学校が開催されました.組織をして下さった,名古屋大学の平田富夫先生,柳浦睦憲先生,小野孝男先生,ならびに,前準備から会場での受付,セッティングなどお手伝いくださった,平田研の秘書さん,学生さんに感謝いたします.ありがとうございました.また,企画の段階から様々な意見を下さった愛知県内のアルゴリズム研究者の皆さま,ありがとうご
ざいました.

 名古屋大学の皆さんはそのような準備,事務などでお忙しいということから,私が司会進行を仰せつかりました.実は司会進行だけでなく,この秋学校の企画の段階からいろいろな提案をさせて頂きました.それは前回の春学校のよい点を引き継ぎつつ,それよりもよいものにしたいという気持ちで行ないました.以下,提案した3点を挙げて,どれ程実現できたかどうか反省してみたいと思います.

1. 「泊り込みの合宿形式で行ないたい」

提案: 学生同士の交流や学生と講師の方々との交流を考えると,合宿形式で行ない,食事をしながら雑談をするとか,適当なときに捕まえて質問をするとか,そういった経験は非常に貴重だと考えています.前回の春学校は東京地区で行なったこともあり,ホテルなどで宿泊をした参加者は半数ぐらいだったと思いますが,今回は名古屋地区で行なうこととなり,ほとんどの参加者がどこかで宿泊することになると考えると,合宿形式で行なうことがよいと思い,提案し
ました.

実現: 名古屋市内のホテルのような場所で行なうと宿泊費が高くなってしまうことも考えて,サンパレア瀬戸という研修施設を利用することになりました.交通の便が若干悪いところが逆に「缶詰状態」を作りだして,参加者間の親密さを増すことができたと思います.夜の空いた時間に卓球やビリヤードをしたり,「わいわいルーム」でわいわいできたことも講師の皆さんを含めて,参加した全ての方のよい体験となったと思います.

2. 「話の分かりやすい方に講師をお願いしたい」

提案: いわゆる「ビッグネーム」に講師をお願いするよりは,学生向けにわかりやすい話をしてもらえる方を講師としてお願いすることを提案しました.そのため,どうしても何度か話を聞いたことのある方や分かりやすさに定評のある方 (つまり,国際学会などでよく招待講演をする方) にお願いすることになってしまいましたが,それでも学生さんにとってはどなたも始めて会う講師ばかりだと思いますので,気にしないことにしました.

実現: 講師をお願いする交渉が少々難航して,5名の講師が決まったのが9月頃になってしまいました.また,講師の方にお願いする際に,聴衆のレベルやトピックの選定などについて,もう少しはっきりとお伝えする方が講師の方の準
備もしやすくなり,講師と聴衆の双方のストレスが小さくできたかもしれません.前もってスライドなどの配布物を「必ず」作ることで,講演のフォローがしやすくなった面もあったかもしれません.ただ,次の項目で挙げる「演習」があったため,演習がなかった場合より理解が深まったとは思います.

3. 「演習の時間をとりたい」

提案: 前回の春学校では各講師に関して3時間の講義が行なわれました.そのため各トピックに関してかなり深いところまで議論が行なわれましたが,いかんせん,理解することがとても難しく,消化不良になってしまった感じがしました.その反省を踏まえて,秋学校では3時間の講義の中の最後の1時間を演習の時間にして,講師の方々に用意して頂いた演習問題をグループに分かれて解くことにしてみました.演習の重要さは私自身が痛感していることなので,そ
れを提案しました.

 実現: この演習が今回の秋学校での一番の収穫だったと思います.グループに分かれて議論する中で,講義内容の理解が深まったり,問題を解くことによる充実感が得られたり,と,「演習の楽しみ」といったものが学生さんに伝わっ
たと思います.また,ディスカッションの時間では,解いた問題について学生が板書で解説をするのですが,講師の想定していなかった解答を見つけたり,割と難しい問題を解いてみせたり,と,予想外の盛り上がりを見せました.参
加した学生さんからも「演習が楽しかった」という感想をいくつか頂きました.グループについては,5つの講義に対して毎回違うグループに分かれるよう予め設定をしておきました.また,各グループに助手またはポスドクを「リーダー」として1人ずつ入れて,グループ内の議論の進行などをお願いしました.リーダーの皆様,突然お願いしたにも関わらず,積極的なご支援ありがとうございました.

 いろいろな方のご支援とご協力に感謝しつつ,何よりも多くの学生さんに参加して頂けて,その中で何か楽しみを見つけていって頂けたことをとても嬉しく思っています.個人的な経験を言いますと,私が学生としてチューリッヒで過ごした3年半の間に,このような形式のスクールに延べ7つ参加しました.その中でもプリンストンのIASが主催す「IAS/PCMI Summer Session」は3週間にも渡るプログラムで,大学生,大学院生,大学の先生,研究者が一同に会していろんなことを議論するという素晴しいものでした.これは毎年 (!) 異なるテーマで開催されていて私は2004年に行なわれた「Geometric Combinatorics」のスクールに参加しました.皆さんの中には2000年に行なわれた「Computational Complexity Theory」の回に参加された方やそのときの講義録を御存じの方もいらっしゃると思います.これは朝から晩まで講義と演習,そして一般講演と,盛り沢山で,アメリカで行なわれたということもあり,かなり疲れましたが,とても楽しかったです.また,他のスクールで「fixed-parameter algorithms」をはじめて勉強し,その後私の研究トピックの1つとなったのは,スクールのおかげです.スクールで出会った他の大学の学生に別の会議であったとき,すんなり溶けこめることができたのもスクールのおかげです.このような私の「スクールへの思い入れ」が今回の秋学校で参加者の皆さんと共有できて,感激しています.ありがとうございました.

 


 2006年度第1回全体会議討論会 議事録       事務局


全体討論 (2006.11.18) 議事録

日時:2006.11.18 13:30--15:30

場所:名古屋大学IB電子情報館IB015教室

記録:伊藤大雄

参加者数:58人(招待者含む)

招待者(外部有識者)

 稲垣康善(愛知県立大学 教授)(評価委員)

 喜連川優(東京大学生産技術研究所 教授)

 小柳義夫(工学院大学情報学部長)

 有村博紀(北海道大学 教授)

 大堀 淳(東北大学 教授)

 五十嵐 健夫(東京大学 助教授)

 鳥居宏次(奈良先端科学技術大学院大学特任 教授)

 田中 和之(東北大学 助教授)

 萩谷昌己(東京大学 教授)

 岩野和生(日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員大和ソフトウエア開発研究 所長)

 市川晴久(NTT先端技術総合研究所 所長)

 松山隆司(京都大学大学院情報学研究科 教授)

討論の構成

 岩間教授の成果報告(13:30--14:00)と徳山教授の今後の展望の報告(14:00--14:30)をうけ、主に外部有識者(招待者)から意見を伺う形をとった。主な意見(と回答)は以下の通り

・これからの課題として出された「未知の情報」「情報の欠如」などには既存のモデルは使えないのか?統計情報は?

 ->回答:モデルは時代とともに変わる。統計情報は平均的なものでしか無く、個々人に適用はできない。

・「未知の情報」「情報の欠如」を扱うには、良く分析して相手を知る、対象を見極めて絞り込むことが必要。

・1990年代の人工知能で似た議論があった。それと同じ道を歩むのでは意味がない。

 ->回答:我々のモデルはあくまで数学的に強固なもの。ベンチマークの議論になった人工知能とは目指すのもが全く異なる。

・現実の「泥臭い」問題を抱えている人々との接点を持ち続けることは重要。そうすることで、情報の持つ本当の「価値」が見えてくる。

・産業界への影響は評価しなくて良いのか?例えば、どれだけ使われたのか?特許、実用化、知財?何人ダウンロードして使ったか?など。

 ->回答:基礎理論研究は効果が見えにくく、直ちにそういった効果を期待するのは難しい。「直ぐに経済効果」では既存の手法の組合せになりがち。使ってもらう方々は、産業界というよりは他の分野の研究者達。

・新しいコミュニティを作り、個々の技術を繋げることを考えて欲しい。

・自身の中でしっかりしたものを作り、世間に自分のやっていることを一言で説明できるようにすることが重要。

・厳密なモデルを厳密に解くという取り組みは共感できる。学術的に真摯な態度を継続していって欲しい。

・「役に立つ」というよりも「面白い」と思ってもらえれば、使ってもらえる。

・若手の育成はとても重要。いかに効率的に「無駄玉」を打つかだ。

 今回はこれまでと違い、外部有識者を12名(評価員の稲垣先生を含む)お招きし、ご意見を拝聴するという試みをしましたが、皆さまから本音を交えて大変貴重なご意見をいただくことができ、大成功だったと考えています。

 現在のテーマである「新世代の計算限界」に対しての成果はたいへん順調に出てきていますが、それと同時に新たな問題点も見えてきました。それを次の特定領域研究に繋げることができれば、本特定は大成功だったと言えると思います。そのためにも皆様のさらなるご協力のほどをお願い申し上げます。

 なお、今回は秋学校に連続して名大(平田研)のメンバーに会場運営をご担当頂いきました。平田先生らには、昨年11月に引続き、今回も快く(本心はイヤだったと思いますが(^^))お引き受けいただき、感謝いたしております。(大)


 「新世代の計算限界」イベントカレンダー  + 事務連絡


全体会議 (予定) 6月 九州大学

 

12/15(金)-17(日) WINE 2006 Patra, (Greece)

12/18(月)-20(水) ISAAC2006 インド カルカッタ

1/7(日)-9(火) SODA07 New Orleans, Louisiana, U.S.A

4/3(火)-5(木) The 5th Hungarian-Japanese Symposium on Discrete Mathematics and Its Applications

6/6(水)-8(金) SoCG'07 Gyeongju 韓国

6/6(水)-9(土) WEA2007 ローマ  投稿〆切 1/20

6/8(金)-16(土) FCRC 2007(含む STOC2007) San Diego, California,

6/11(月)-15(金) KyotoCGGT2007 京大,   投稿〆切 2/10

7/9(月)-13(金) EURO XXII Prague, Czech

7/9(月)-13(金) ICALP 2007 Wroclaw, Poland,

 

 


 このニュースレターについて


 

ニュースレター各号は電子メールで配布する予定です.短い記事や連絡事項は全て掲載しますが,長い記事,イベントの詳細などはwebページに掲載する予定です.webページには詳細まで全てを載せた完全版を掲載して,目次,あるいは各記事の末尾のURLを参照すると,web版の同じ記事を参照できるようにいたします.

 記事は,各回,1つの研究課題に担当をお願いする予定です.各研究課題で2000-4000字程度,研究に関わる記事を書いていただければと思います.通常,このようなニュースレターでは,研究成果を報告するのが一般的だと思われますが,この特定領域では「研究者の交流」に焦点を当てたいため,「研究の成果以外」の記事を面白く解説していただければと思います.例えば,最近参加した国際会議の情報を,どのようなものが流行っていたか,何が面白かったか,などの主観的な解説を交えて報告したり,最近考えている問題,あるいはオープン問題を,この辺までは解けるがここがうまくいかない,といった解説を交えて紹介する,という形です.

 また,研究者間の交流を促進するため,各研究者の,国内外の会議への出席予定を集約して掲載していこうと考えています.研究者の交流には,顔をあわせる回数を増やすことが肝要です.他の研究者の参加予定がわかれば,会議への出席のモチベーションを高めることにもつながり,それがディスカッションや研究成果を生むきっかけにもなるでしょう.特定領域メンバーの皆さんには,自分のわかる範囲で,国内外の会議・研究会の情報と,自分の参加予定を教えていただければと思います.

 この他,個人からの寄稿を募集いたします.100-1000字程度で,情報宣伝されたいことを自由な形式で書いて送っていただければ,掲載いたします.メールで配布する関係上,テキスト形式のものしか扱えませんが,そこはご了解お願いいたします.

次号は3月ごろを予定しています.

ニュースレター編集委員では,皆様からのご意見をお待ちしております.編集方針や内容の追加など編集全体にかかわることから細かいことまで,幅広いご意見をお願いいたします.

 ■■ 新世代の計算限界 ニュースレター ■■

      編集委員長 宇野 毅明 uno@nii.jp (問合せ先)

      副編集委員長 牧野 和久 makino@sflab.sys.es.osaka-u.ac.jp