特定領域研究

  「新世代の計算限界」 ニュースレター    第 9 号        2008/1/17


          はじめに

このニュースレターは,特定領域・新世代の計算限界のメンバーの情報交換と交流を目的とした情報発信誌です.毎回,いくつかの研究関連の記事と,特定領域のスケジュール・活動報告と,各研究者の活動予定などをお送りいたします.今回は,電気通信大学の西野先生によるご紹介と,12月に行われた全体会議の報告を行います.

 

1.社会の活気と大学の元気      −  西野 哲朗 (電気通信大学)

2.平成19年度第2回全体討論議事録  − 事務局

3.イベントカレンダー + 事務連絡

4.このニュースレターについて




      社会の活気と大学の元気    西野 哲朗 (電気通信大学)


 昨年の暮れに、ニュースレター編集委員長の宇野毅明先生から、記事の執筆依頼をいただきました。「なるべく「研究成果」ではなく「研究にまつわる成果以外の話」を書いていただいて、成果の情報を交換するのみにとどまらず、もっと人的な部分での理解と交流を図りたい」とのご依頼でしたので、ちょっと古い話で、「ニュース」にもならないので恐縮なのですが、昨年、二度ほど中国に出張した際に、感じましたことなどを書かせていただきます。まず、一件目の出張についてですが、昨年9月18日から20日に、北京郵電大学において開催された、第2回ICTトライアングルフォーラムに参加致しました。その詳細につきましては、こちらをご参照下さい。

 このフォーラムは、電気通信大学と北京郵電大学、韓国情報通信大学(ICU)のいずれも情報通信を主領域とする日中韓の3大学が協力して、研究・教育の連携およびICT分野の国際連携を強化してゆくことを狙いとする催しです。初回は、電通大で一昨年の8月7〜9日に開催されました。学術交流プログラムとしては、3大学の共催によるInternational Symposium on Advanced ICT (AICT2007)と、北京郵電大・中国通信学会の共催による International Conference on Broadband Network and Multimedia Technologies (IC-BNMT2007)の両会議がジョイント形式で開催されました。本来は、学術交流や学生交流などの行事を、なるべく手作りでフランクに行っていくという趣旨だったのですが、今回の北京では大変な歓待を受けてしまいました。それが中国の文化だとは思うのですが、再び、電通大が当番になったときが大変だなあとつい思ってしまいました。ちなみに、ICTトライアングルフォーラムが行われた大学構内の国際交流施設「ハイテクマンション」は立派な三つ星のホテルなのですが、大学の持ち物です(写真参照)。国費によって建てられたと聞きました。羨ましい限りです。

 フォーラム初日の午前中には、中国の代表的な通信事業者である中国通網の展示場を見学しました。中国通網は、今年の北京オリンピックにおける情報通信・放送ネットワークを提供することになっており、オリンピックに向けての準備状況をはじめ、開発中の技術・サービスの説明を受けました。日本のTVでも放映されていますが、現在、北京は、オリンピックの準備に向けての建設ラッシュの最中です。以前に比べて、自動車が驚くほど増えました。また、通勤時間帯に街に出なかったからかもしれませんが、自転車を以前ほど多くは見かけませんでした。また、聞いていたほど、排気ガスは酷くなかったです。街は、オリンピック前夜の1964年の東京のような活気に溢れていました。

 次に、二軒目の出張についてですが、昨年の11月26日から29日に、上海交通大学で開催された、「第一回ロボットと人工知能国際シンポジウム」に参加しました。詳細は、下記URLの記事(は中国語ですので)の写真をご覧下さい。今後、この方面の共同研究を、上海交通大学と電通大で連携して行っていこうということで、両学長による調印式も行われました。このページにある一番上の写真の左側の方が、上海交通大学の学長です。47歳のレーザ物理学者で、中国共産党員でないのに、学長の要職に就いたということで、現在、中国では話題の方だそうです。直接お話しした感じでは、とても頭の回転が速い切れる方という印象でした。ちなみに、同じ写真の右側の方は電通大の益田学長です。

上海交通大学は、上海市内の伝統的なキャンパスの他に、市内から15キロほどの郊外に、広大な新キャンパスも擁しています。新キャンパスは、まるで筑波大学のような雰囲気でした。その新キャンパスに隣接したエリアには、マイクロソフト、インテル、オムロンといった企業が進出しています。最近は、一人っ子政策の影響で、中国人の親が、子供を中国国内のそうした外国企業に就職させたがる傾向が強くなってきたというお話でした。上海にも大変活気がありました。2010年に万博が開催されるのだそうです。そのための大規模な工事が、工場移転後の広大な跡地で行われていました。ちょうど、日本の1970年の大阪万博前夜というような活気に満ちていました。

このような北京や上海の状況を見るにつけ、羨ましい気持ちで一杯になりました。企業人も、大学人も、学生も、皆、とても活気を帯びているのです。それに引き替え、現在の日本には、なんとも言えない閉塞感が漂っています。例えば、今年の入試の懸念材料も、いわゆる「通信・情報離れ」です。大手予備校の予測によりますと、今期の入試では、「工学部離れ」は底を打った感がありますが、それに反して、「通信・情報離れ」は深刻な状況にあります。国公立の工学部系平均で、「通信・情報系」は志願者が7%減となっています。これは「全体として前年並みの志願者を確保した工学部系全体」の中では、最も大きな下げ幅となっています。

そのことの根本原因は、やはり、高校生やその父兄、高校の先生方が、「情報科学」、「情報工学」や「通信工学」の中身をあまりご存じないことにあると思います。この分野の魅力については、我々の方から積極的に発信して行かなければなりません。2010年には、学部全入時代に(予想よりやや遅れて)突入すると言われておりますので、早急に対策を講じなければなりません。そうしませんと、優秀な情報通信系の日本人技術者が輩出できなくなり、日本のこの方面の技術力が空洞化していくことでしょう。

昨年、日経新聞のある記者さんとお話しした際に、現在、米国でも、シリコンバレーの技術力が空洞化してきており、大問題になっていることを知りました。中国やインド、中東諸国が、米国で Ph.D を取得した優秀な人材を、国策で母国に呼び戻し始めているからだそうです。この問題を憂慮したビル・ゲイツ氏は、通常のインタビューには一切応じないのに、この話題のときだけは必ずマスコミに登場して、「アメリカは夢のある国だ!優秀な若者よ来たれ!」ということを訴えられるのだそうです。

今期の入試では、「工学部離れ」は一応底を打った感じなのですが、その一方で、「教員養成系」が非常に不人気になっています。団塊の世代の先生方が退職され、教員になるには絶好のチャンスなのに、どうしたことだろうと思っておりましたら、学芸大のある先生が、「小中高の教師の過酷な職場環境が、高校生やその父兄にフィードバックされているからでしょう」とおっしゃっておられました。そう言われてみますと、情報・通信系の職場は、いまや、「3Kではなくて5Kだ」という意見すらあるようですから、このことが「通信・情報離れ」の根本原因なのかもしれません。やはり、社会の有り様から変えて行かないと、入試動向にも変化はもたらされないのかもしれません。

子供の問題は、結局、親の問題だと考えてみると、教育問題を解決するためには、最終的には、社会全体が変わらなければならないという、ごく当然の結論に行き着きます。一見、八方ふさがりのようにも見えるこの現状を打開するためには、日本の社会そのものを活性化していく方策を考えるしかないのでしょう。最近は、万能細胞の話題が注目を集めておりますが、我々の研究成果が、社会に活気を与えてくれることを期待しながら、日々、努力を続けるしかないと思います。そして、そのためには、大学が元気であり続けなければならないと実感する今日この頃です。

 


 平成19年度第2回全体討論議事録     事務局


日時:2007.12.15 15:30〜17:30

場所:東北大学 (青葉山キャンパス)
   電子情報システム・応物系 南講義棟 1階 103号室


[ 新学術調査官梅田先生の紹介 ]

梅田和昇 (UMEDA Kazunori)
  中央大学理工学部精密機械工学科教授
  専門分野:計測工学、ロボット工学

[ 活動報告 ]

 ○秋学校(9/30-10/03 白山セミナーハウス):浅野(哲)

 ○HERCMA Affiliated Mini-Symposium on NHC (9/20 アテネ):浅野(哲)

 ○ミニシンポジウム「新世代計算限界と地球環境問題」(12/3-4 京大):加藤・杉原

 ○ミニ研究集会:列挙アルゴリズム(9/12-14 群馬大):宇野・中野(眞)

 ○「アルゴリズム・サイエンス・シリーズ」(共立出版):杉原、山下、室田、渡辺

  ・出版社は来年度中に完結したい意向。ご協力をお願いします。

 ○会議補助報告

  ・KyotoCGGT2007 (6/11-15, 京大, 伊藤)

  ・AQIS2007 (9/03-06, 京大, 岩間)

  ・ALT2007 & DS2007 (10/01-04, 仙台国際センター, 瀧本)

  ・すべて大成功であったと報告あり。

 ○ポスドク:玉置卓(2006月4月〜2007年5月 京大)、山本真基(2006月4月〜 京大)、和田乃慧(2007年6月19日〜 名大)

 ○招聘研究者(2007年度12月まで22名)

 ○事務補佐員:川嶋知子(2006年5月〜10月)

 

[ 進行状況報告 ]

  ○ISAAC2007 (12/17-19, 仙台エクセルホテル東急):徳山

  ○信学会総合大会学生シンポジウム:渡辺・宮崎

   ・3月に北九州学術研究都市にて開催

   ・各研究課題ごとに1件は発表してほしい

   ・総括班からの旅費の補助は上限5万円

   (但し遠距離等で足りない場合は、応相談)

  ○列挙学校 (2/28-29, マホロバマインズ [神奈川県三浦市]):宇野

  ○ニューズレター:宇野

   ・今後、12月と年度末の2回作成予定

   ・年度末の方は、4年間のまとめを意識したものとする予定。研究代表者に短いコメントを書いてもらう等を検討

  ○最終報告書:堀山

   ☆ 研究課題別の報告書

    ・2008年1月〆切

    ・4年間の研究成果をまとめる

    ・領域としての連携が重要

   → 他の研究者と連携することで研究が進んだ例等、アピールしてほしい

   ☆ 総括班の報告書:

・領域として連携した成果を示すことが重要

    ・ヒアリングに向けて、成果を募集して、まとめたい

    ・後日お尋ねのメールをお出ししますので、ご協力をお願いします

  ○とりまとめ予算申請:伊藤: 成果取りまとめのための来年度の予算を申請した。


[ その他(連絡事項など)]

  ○渡辺治教授(東工大)より: これまでのNHCでの学校の流れを引き継いで、9月下旬に夏学校を開催したい(GCOE)。

  ○徳山教授(東北大)より次期プロジェクトの報告



 「新世代の計算限界」イベントカレンダー  + 事務連絡



・成果報告書の執筆依頼


領域として、研究課題別の成果報告書を作成する時期となりました.お忙しいところを恐縮ですが,A01 から C11 の研究課題ごとに御執筆いただけますようお願い申し上げます.なお,今年度は最終年度のため,〆切と原稿の体裁が例年と異なりますので,ご注意ください.詳細は別途メールでもお送りしましたが,「〆切が1月末日」となり,原稿も「4年間の成果のまとめ」となります.様式はこちらからダウンロードしてください。

 

・ ミニ研究集会「列挙学校」 2/28(木)-2/29(金) 三浦海岸、マホロバマインズ
  詳しくは、メーリングリストの案内、申し込みは宇野or岡本まで

ミニ研究集会組合せゲーム・パズル, 3/7(金) 東京工業大学大岡山キャンパス
投稿〆切: 2/8

1/20(日)-22(火) SODA08, San Francisco, California, USA

2/7(木)-8(金) WALCOM2008, Dhaka バングラディッシュ

2/21(木)-23(土) STACS2008, Bordeaux, France

3/16(月)-19(木) CO2008, Univ. of Warwick, Coventry, 英国, 投稿〆切: 2007/11/19

3/18(水)-21(金) 電子情報通信学会総合大会, 北九州学術研究都市, 企画「COMP-NHC 学生シンポジウム」あり, 18日終日, COMP研一般セッション 19日 9:00〜14:00

3/25(火)-26(木) 日本OR学会春季研究発表会, 京都情報大学院大学, 3/24にシンポジウム & 3/27に見学会

4/26(土)-27(日) AAAC, 香港大学, 香港, 投稿締切: 2/15

5/17(土)-20(火) STOC 2008, Victoria (BC), CANADA, 投稿〆切 : 2007/11/19

6/9(月)-11(水) SoCG2008, Univ. Maryland in College Park, Maryland, USA.

6/16(火)-19(金) DM08 (SIAM Conf. Dis. Math.), Univ. of Vermont, Burlington, Vermont, USA, 投稿〆切: 2008/1/21

6/27(金)-29(日) COCOON'08, 大連(Dalian), 中国, 投稿〆切: 2008/2/8

6/30(月)-7/2(水) WG2008, Durham University, 英国

7/2(水)-7/4(金) SWAT2008, Gothenburg, Sweden, 投稿〆切: 2008/2/17

7/6(日)-13(日) ICALP2008, Reykjavik, Iceland, 投稿〆切: 2008/2/10

9/15(月)-19(金) ALGO2008, Universitaet Karlsruhe, Germany, 投稿締切り4月4日,  この中でESA 2008も開催されます

12/15(月)-17(水) ISAAC2008, Gold Coast, 豪,  投稿〆切: 2008/6/25

 


 このニュースレターについて


 

ニュースレター各号は電子メールで配布する予定です.短い記事や連絡事項は全て掲載しますが,長い記事,イベントの詳細などはwebページに掲載する予定です.webページには詳細まで全てを載せた完全版を掲載して,目次,あるいは各記事の末尾のURLを参照すると,web版の同じ記事を参照できるようにいたします.

 記事は,各回,1つの研究課題に担当をお願いする予定です.各研究課題で2000-4000字程度,研究に関わる記事を書いていただければと思います.通常,このようなニュースレターでは,研究成果を報告するのが一般的だと思われますが,この特定領域では「研究者の交流」に焦点を当てたいため,「研究の成果以外」の記事を面白く解説していただければと思います.例えば,最近参加した国際会議の情報を,どのようなものが流行っていたか,何が面白かったか,などの主観的な解説を交えて報告したり,最近考えている問題,あるいはオープン問題を,この辺までは解けるがここがうまくいかない,といった解説を交えて紹介する,という形です.

 また,研究者間の交流を促進するため,各研究者の,国内外の会議への出席予定を集約して掲載していこうと考えています.研究者の交流には,顔をあわせる回数を増やすことが肝要です.他の研究者の参加予定がわかれば,会議への出席のモチベーションを高めることにもつながり,それがディスカッションや研究成果を生むきっかけにもなるでしょう.特定領域メンバーの皆さんには,自分のわかる範囲で,国内外の会議・研究会の情報と,自分の参加予定を教えていただければと思います.

 この他,個人からの寄稿を募集いたします.100-1000字程度で,情報宣伝されたいことを自由な形式で書いて送っていただければ,掲載いたします.メールで配布する関係上,テキスト形式のものしか扱えませんが,そこはご了解お願いいたします.

次号はいよいよ最終号になります。4月ごろを予定しています.

ニュースレター編集委員では,皆様からのご意見をお待ちしております.編集方針や内容の追加など編集全体にかかわることから細かいことまで,幅広いご意見をお願いいたします.

 ■■ 新世代の計算限界 ニュースレター ■■

      編集委員長 宇野 毅明 uno@nii.jp (問合せ先)

      副編集委員長 牧野 和久 makino@sflab.sys.es.osaka-u.ac.jp