特定領域研究

  「新世代の計算限界」 ニュースレター    第 8 号        2007/10/22


          はじめに

このニュースレターは,特定領域・新世代の計算限界のメンバーの情報交換と交流を目的とした情報発信誌です.毎回,いくつかの研究関連の記事と,特定領域のスケジュール・活動報告と,各研究者の活動予定などをお送りいたします.今回は,九州工業大学の宮野先生による海外での興味深い講演のご紹介と,10月に行われた秋学校の報告を行います.

 

1.Lens of CS and Algorithms      − 宮野 英次 (九工大)

2.2007年度NHC秋学校に参加して  − 清見礼(JAIST)

3.イベントカレンダー + 事務連絡

4.このニュースレターについて



      Lens of CS and Algorithms    宮野 英次 (九工大)


今年7月末から来年3月までの予定で,文部科学省「大学教育の国際化推進プログラム・海外研究実戦支援」による補助金により,ワシントン大学計算機科学科(UW CSE)に滞在する機会を得ることができました(もちろん本特定領域科研費の最終年度ですので,本研究課題も同時進行でやっていくことを強調しておかなければなりません).UW CSE では,計算機科学全般に関して Colloquia という1時間程度の講演会が週に二度行われ,それ以外にそれぞれの分野のセミナーが行われています.その中から印象深い講演の紹介を書きたいと思います.

今年6月にサンディエゴで開催された STOC2007 および FCRC2007 にご参加された方もいらっしゃると思いますが,そこで 「CCC@FCRC」というイベントが開催されています.Colloquia では,CCC (CRA Computing Community Consortium) の委員長である Lazowska 教授の講演を聞くことができました.題目は「Computer Science: Past, Present and Future」で,CCC@FCRC で行った講演と同じ内容のようで,技術的な話は無く,楽しく聞くことができました(たまに,なぜ大爆笑なのかついていけないところもありましたが...).

最初に,過去のハードウェア分野の進歩の例として「トランジスタ,ICは生誕60年程度にも関わらず,2004年のトランジスタの生産量は2004年の米粒の生産量と同じであり,その数は10^19乗個」,ソフトウェア分野の進歩の例として「1997年の Deep Blue の成果が,5年後には Deep Frizt という20ドル程度のチェスのPCソフトとして発売されたこと」などを挙げていました(非常に分かりやすい!).その速さと拡大の大きさを「I think there is a world market for maybe five computers -- Thomas J. Watson, founder and Chairman of IBM, 1943」という予想を(もちろん)遙かに凌駕しているという例で説明されていました.また別の予想として「Computers in the future may weigh no more than 1.5 tons -- Popular Science, 1949」というのもあったそうです(見事予想的中ではありますが).その後,計算機科学が世界を変えてきたこと,さらに今後10年間の進展が大事であることを指摘されていました.また,CCC@FCRC の講演者の一人である Papadimitriou 教授の「The Algorithmic Lens: How the Computational Perspective is Transforming the Sciences」の簡単な紹介もされました(以下その抜粋).

The lens of computation

    - Processes in the physical and life sciences can often be productively thought of as computational; this results in novel insights which end up transforming these fields

    - On the other hand, the dual computational/social nature of the Internet and the www has inspired research in the interface between CS and the social sciences

    - Finally, deep mathematical problems of computational origin have transformed the research agenda of Mathematics

    - These interfaces are typically initiated by research interactions between CS theorists and researchers of the particular scientific field

    - biology, quantum computation, statistical physics, nathematics economics and game theory, sociology

In conclusion ...

    - Algorithmic thinking is penetrating and transforming the sciences, while CS is also being enriched

    - Note that this important intellectual exchange between CS and the sciences is complementary to the more traditional interface re: computational problems arising in the fields in question

「この数十年間は計算機科学が技術的な躍進を牽引してきた」,さらには「古くからの成熟した科学をアルゴリズムのレンズを通して眺めてみることにより,さらなる新しい発見・発明,大胆な発想を生み出すことができる」,つまり「アルゴリズムが世界を動かす(kaken-all:00384参照)」というのは非常に勇気づけられる内容でした."Algorithmic Lens"という言葉はキャッチーで魅力的です.機会があれば講義などで利用したいと思っています.

最後に,CCC@FCRC の5件の発表資料を以下から得ることができますので,詳細についてはご参照ください.残念ながらビデオは無いようです.CCCを組織した目的(交流による研究推進)なども書かれており,興味深い内容があります.

CCC@FCRCのページ        上記講演の資料DL

 


 2007年度NHC秋学校に参加して     清見礼(JAIST)



9月30日から10月3日までの4日間, 特定領域研究「新世代の計算限界」の活動の一環として, 秋学校が石川県の白山セミナーハウス望岳苑で開かれました.JAIST に赴任してからたまに夜空を見ることがあり, 東京とはくらべものにならないほどよく星が見えると思っていたのですが, 望岳苑から見た夜空はさらにそれを大きく上回るものでした. 空にはこれほどに多くの星があるものなのかと驚くほど無数の星が輝いており, 天の川がくっきりと見てとれました. 携帯電話の電波もほぼとどかない自然の環境の中, 毎晩別の温泉につかれるという4日間の学校は非常によいものでした.

今回の秋学校の講師の先生は, 当初, ドイツの Free University の Christian Knauer 先生, 同じくドイツの Dortmund University の Friedrich Eisenbrand 先生, そして JAIST の 浅野哲夫先生の予定でしたが, Knauer 先
生が急病で日本に来られなくなり, 東北大の徳山豪先生と豊橋技術科学大学の岡本吉央先生が急遽講義をしてくださいました. 講義は, 徳山先生が分割同値性について, 岡本先生が距離空間の埋め込みについて, Eisenbrand 先生が低次元な整数計画や線形計画問題の高速アルゴリズムについて, そして, 浅野先生が実際的な(これは岡本先生の講義が, 理論により重きを置いていたのに対してということです)埋め込みについてというものでした.

岡本先生は講義の内容に関して, 沢山の演習問題を用意されており, それにも時間が当てられました. 岡本先生は日頃から, 日本の教育では演習が軽視されており, もっと積極的に演習をするべきだ, と主張されておられます. 自分で教科書を読んでいると, ついつい演習問題はとばしてしまうのですが, 演習問題をしっかり解くべきというのは, 本当にその通りだと思います. 私も JAIST で1 年助手をして, ゼミが発表者と教師のみで進んでおり, その他の学生がつまらなそうにしていることが多いと感じ, 今年の本読みゼミを問題演習中心にすることを提案しました. すると, 学生さん達のゼミへの姿勢が積極的になり, 皆が予習をしっかりして望むようになり, 非常によいと感じました. 今回の秋学校でも, 夜遅くまで皆で親睦を深めていたのに, よく皆これだけやるものだと思うほど, 参加された学生さん達は演習問題を解いていました. このような短期間の学校での演習は, できる数名の人が積極的に演習をして, 他の人は下を向いて黙っているというようなこともありがちですが, 今回参加された学生さん達は, 総じて問題を解こうとしており, この分野の未来は明るいと感じました.

今回の学校で少し残念であったのは, 唯一外国から講義に来てくださった Eisenbrand 先生の授業での, 受講者のノリがいまいちだったことです. 先生の講義の内容は, 計算幾何の話としては基礎的なものだと思いますが(先生はもう少し突っ込んだところまで予定されていたようですが), 唯一英語であったためか, そもそも参加者のバックグラウンドがずれていたためか, あるいは両方かも知れませんが, どうもギクシャクした感じで, 意志の疎通がうまくいっていないような感じを受けました. 食事や休憩時間でも Eisenbrand 先生と話をしているのが, だいたい数名の先生ばかりな印象があり, 自分も含め, もっとこういう機会に積極的にコミュニケーションをとるようにしなければいけないと感じました.

今回の秋学校は, 石川県白山市で開催ということで, JAIST の浅野先生が世話役でした. 今回参加した人の人数は約30名で, 講師の先生以外はほぼ学生さんとポスドクの方でした. 今回は浅野先生の発案で, ネームタグ等は使わず, 参加者間で積極的にコミュニケーションをとり, 帰るまでに全員の顔と名前を一致させる, という方針がとられました. 参加者が学生さん中心だったこともあり, 夜は皆でゲームをして盛り上がりましたが, こうなると30名くらいの名前は自然と覚えられるものです. 結果的にネームタグをなくすというやり方は成功だったと思います.

秋学校や春学校はもう何度目かになりますが, やはり, 若い人達を中心にして数日間みっちりゼミをやるというのは, 非常によいこころみだと思います. 私は15分や20分の学会発表というのがどうにも好きになれず, このように一人の先生が長い時間をかけてお話ししてくださる機会は, 担当してくださる先生は大変でしょうが, 是非今後も続けていただきたいと感じます. 最後に JAIST の人間で色々動かなければならない立場でしたが, あまり仕事らしい仕事もせず, 自分も受身な参加者のように振舞ってしまっていましたが, 参加した皆様の御協力で今回の秋学校は大成功だったと思います. 参加者の皆様, 本当にありがとうございました.

 


 「新世代の計算限界」イベントカレンダー  + 事務連絡


今年度は最終年度のため、成果報告書の執筆〆切は例年よりも早まり、2008年1月の予定です。また、研究課題ごとに4年間の成果をとりまとめていただくことになります。事務局にて編集の後、今年度中に製本までたどりつく必要がありますので、どうぞ御協力をよろしくお願い致します。

 

全体会議   12/15(土) 東北大 ISAAC2007と連続開催

10/8(月)-12(金) ALGO 2007, Eilat (Israel) この中でESA 2007が開催されます

10/20(土)-23(火) FOCS 2007, Providence, Rhode Iland, (USA)

11/5(月)-9(金) IWOCA2007, Lake Macquarie, Newcastle, NSW, Australia

12/16(日) IWAAG 2007 (西関教授還暦記念WS) 仙台エクセルホテル東急

12/17(月)-19(水) ISAAC2007, 仙台

1/20(日)-22(火) SODA08, San Francisco, California, USA

3/25(火)-26(木) 日本OR学会春季研究発表会, 京都情報大学院大学, 3/24にシンポジウム & 3/27に見学会

5/17(土)-20(火) STOC 2008, Victoria (BC), CANADA, 投稿〆切 : 2007/11/19

6/27(金)-29(日) COCOON'08, 大連(Dalian), 中国, 投稿〆切: 2008/2/8

6/30(月)-7/2(水) WG2008, Durham University, 英国

7/2(水)-7/4(金) SWAT2008, Gothenburg, Sweden, 投稿〆切: 2008/2/17

7/6(日)-13(日) ICALP2008, Reykjavik, Iceland, 投稿〆切: 2008/2/10

 


 このニュースレターについて


 

ニュースレター各号は電子メールで配布する予定です.短い記事や連絡事項は全て掲載しますが,長い記事,イベントの詳細などはwebページに掲載する予定です.webページには詳細まで全てを載せた完全版を掲載して,目次,あるいは各記事の末尾のURLを参照すると,web版の同じ記事を参照できるようにいたします.

 記事は,各回,1つの研究課題に担当をお願いする予定です.各研究課題で2000-4000字程度,研究に関わる記事を書いていただければと思います.通常,このようなニュースレターでは,研究成果を報告するのが一般的だと思われますが,この特定領域では「研究者の交流」に焦点を当てたいため,「研究の成果以外」の記事を面白く解説していただければと思います.例えば,最近参加した国際会議の情報を,どのようなものが流行っていたか,何が面白かったか,などの主観的な解説を交えて報告したり,最近考えている問題,あるいはオープン問題を,この辺までは解けるがここがうまくいかない,といった解説を交えて紹介する,という形です.

 また,研究者間の交流を促進するため,各研究者の,国内外の会議への出席予定を集約して掲載していこうと考えています.研究者の交流には,顔をあわせる回数を増やすことが肝要です.他の研究者の参加予定がわかれば,会議への出席のモチベーションを高めることにもつながり,それがディスカッションや研究成果を生むきっかけにもなるでしょう.特定領域メンバーの皆さんには,自分のわかる範囲で,国内外の会議・研究会の情報と,自分の参加予定を教えていただければと思います.

 この他,個人からの寄稿を募集いたします.100-1000字程度で,情報宣伝されたいことを自由な形式で書いて送っていただければ,掲載いたします.メールで配布する関係上,テキスト形式のものしか扱えませんが,そこはご了解お願いいたします.

次号は1月ごろを予定しています.

ニュースレター編集委員では,皆様からのご意見をお待ちしております.編集方針や内容の追加など編集全体にかかわることから細かいことまで,幅広いご意見をお願いいたします.

 ■■ 新世代の計算限界 ニュースレター ■■

      編集委員長 宇野 毅明 uno@nii.jp (問合せ先)

      副編集委員長 牧野 和久 makino@sflab.sys.es.osaka-u.ac.jp